研究会の目的と趣旨

研究会の目的と趣旨

明治期から第2次大戦前までに屋外に設置された彫刻や記念碑は、3回の受難を体験しています。
1回目は、第2次大戦中の昭和18年3月の閣議決定による金属供出であり、第2回目は、終戦後の昭和21年11月の文部・内務両次官通牒にもとずくGHQ主導による軍国主義的銅像の撤去でした。
この2度にわたる受難をかいくぐった作品は、更に深刻な3回目の試練に遭遇します。それは、戦後の高度経済成長期以後、激化した大気汚染の影響によるダメージの進行です。この最後の消耗を助長しているものに作品を良好な状態で保存する為の管理体制の不備があります。


戦後、50年から60年代にかけて「野外彫刻展」で盛んに制作された「セメント彫刻」はその多くが破損や著しい劣化の状態で放置されたままで、現在消滅の危機にさらされています。移設や撤去により行方不明のものも少なくありません。

70年代からは多くの自治体で「彫刻のある街つ゛くり事業」が開始され、多量の彫刻が町中に設置されるようになりました。そして現在、いわゆる「パブリックアート」の名のもとに、公共的な空間への作品設置がますます増加する傾向にあります。しかし、自治体は《芸術作品の保守》と言う観点から適切な保守管理を行うシステムを構築するには至っていません。

自治体が所有あるいは管理しているこれらの作品は、たいていは設置場所によって、所管が都道府県あるいは市町村の公共緑地化、土木課、管財課、教育委員会の社会教育課、学校、市民会館や体育館などへ分散しており、これらを一括して保守管理する体制は取られていません。作品の記録台帳は財産目録程度のものがあるだけです。多くの管理担当者は数年ごとに交代し、作品の保守・保存に関して一貫した継続性を持った記録台帳は作られていません。

これらの彫刻や記念碑の中には緊急の保存・修復の処置を必要としているものが数多く有ります。貴重な文化的財産を後世に残す為にも、早急の対応が必要であることは言うまでもありません。

多くの管理担当者は作品の劣化や異変に気が付いていても、これにどのように対処すべきか、保存修復の専門家にどのようにアクセスできるのか…等に関する有効な知識を持ってはいません。これらの管理担当者には、《芸術作品の適正な保存の為には…保存修復家という専門的職能が不可欠である》という最低限の認識すらまだ育ってはいません。これらの管理担当者の「相談窓口」となり、具体的なアセスメントを持っていく機会をこの「研究会」は作りだそうとしています。保存修復についての専門性を欠いた「メンテナンス業者」の誤った情報と劣悪な処置から、これらの作品を守ることの緊急性と必要性も問われています。   

この研究会は、これらの作品の保守を適切に行っていくために、必要な調査を行うと共に技術上の課題を科学的に研究し、今後のあるべき保守管理のシステムを探り実現を目指す事が目的です。問題は制度に関わり、文化のある蓄積のかたちに関わっています。純粋に技術、材料だけの研究とはいかないところに難しさがあります。保存修復家保存科学者ばかりでなく、美術史家、自治体の管理担当者など、幅広い人たちの、この「研究会」ヘの参加が不可欠です。