「静岡県の彫刻調査とSNSの活用について」

[配布スライド資料]

「静岡県の彫刻調査とSNSの活用について」(レポート) 
高嶋直人 研究会会員

 公共空間の彫刻が市民活動によって保存活用されている地域がある。今回の新型コロナウィルスの流行が始まった頃、それらの活動は自治体や市民の判断をもとに自粛され、自治体予算による他の活動も中止された事例があった。(その後の活動は、それぞれの判断で制限しつつ継続している地域が多い。)そのような背景から「市民主体の彫刻の保存活用」の動向が収縮していく可能性を感じ、公共の彫刻に関する新たな保存活用の手段として、私はSNSによる情報共有と、実際の作品調査とSNSとの連携を試みた。

 今回の研究会では、そのSNS(Facebook、クラウドファンディング、インスタグラム)の実用例を、静岡県の彫刻の調査内容とともに報告した。

  Facebookのグループ機能では、市民と専門家、また作品の管理者のような公共の彫刻に関わるそれぞれの立場の人間が情報を共有することが可能である。今回作成したFacebookグループ「彫刻と市民」について、各地の活動情報を共有した投稿の他、彫刻家のメンバーに彫刻の状態について解説を受ける投稿、市民が地元に設置されている作品をただ紹介する投稿などを報告しながら、SNSコミュニティとしての保存活用の可能性を示した。 今回は、主にこの「彫刻と市民」と連携した方法で、静岡県の彫刻調査を行った。

  実施した静岡県の彫刻の調査とは、県内の彫刻のリスト化を目的としたものであり、浜松市、中部、東部・伊豆の公共作品を撮影、記録、マップ化した。その中でも、今回は危機的状態にあるセメント作品についてや戦前から残されている作品についてを報告した。特に、セメントで制作された野外作品の保存問題が指摘される中で、伊豆地方の伊豆市と松崎町に設置されている「鳩巣会」の作品群(それぞれ1962年、72年設置)は、引き続き注目していかなければならない。「鳩巣会」は、静岡県内でも多数作品を設置している地元出身の彫刻家、堤達男が中心となったグループであるが、作品はセメントの脆化も窺え、芯材の鉄錆の膨張によって破損している作品もあった。作品の倒壊による事故が十分に予測される中で、自治体と市民、専門家を含めた環境での議論・対応が急がれる。

  浜松市から伊豆地方までの作品を調査し、県内の作品はひとつの特徴で捉えられず、今後も個々の設置事業を細かく整理する必要性を感じた。

  浜松市は、市内の様々な彫刻設置事業に地元出身の水野欣三郎が関わっている一方で、その他にも戦前作と思われる作品や、いわゆるパブリックアートも複数残されているなど、作品の設置事業のバリエーションが際立つ。中部では、JR静岡駅や駿府城公園、護国神社を中心に、地元出身の彫刻家による作品が多く見られた。特に西伊豆出身の彫刻家、堤直美による作品は、近年も中部地域には設置されている。さらに清水区(旧清水市)のさつき通りには、1984年に地元有志で結成した「水と彫刻のあるまちを創る会」の運動により設置された作品が並ぶ。東部・伊豆では先述の「鳩巣会」のセメント彫刻群のほか、「伊豆の踊子」、「吉田松陰」、「ペリー」などの伊豆に伝わる文化、歴史がテーマとなっている作品が多い。また、沼津の速水史郎の「速水彫刻街具の道」、伊東市なぎさ公園の重岡建治の彫刻など、1人の作家による彫刻群も特徴的である。  

  尚、リスト化に伴い、前述のFacebookグループ「彫刻と市民」では内容を共有しながら調査を進めていた。そこで、グループメンバーとは以下のような情報を共有が出来たことは、SNSと彫刻調査の連携の可能性として考えられる。

・先行の調査についてのデータ
・地元関係者からの資料・情報(地元の刊行物などの資料や作品の設置位置などの情報)
・作品や素材の状態について、彫刻家・修復家のメンバーからのコメント

 今後も県内の彫刻リストの精度を上げていき、この調査を具体的な保存活用の実践へとつなげていく。